

「じたばたしなさんな」(2-2)
母は愚痴や泣き言を言わない人でした。でも、一度だけ「今日だけは堪えられない」と膝をついて泣いたことがありました。母は涙をぽろぽろこぼすのではなく、目の周りを涙でくしゃくしゃに濡らして泣くのです。あの日、何があったのか、聞かなかったのか、聞いて忘れてしまったのか定かではありま...


「じたばたしなさんな」(2-1)
緊急搬送された病院で、父は脳塞栓による脳機能障害、右半身の麻痺と失語症と診断されました。集中治療室の父は視点をさまよわせ、意味不明の大声を張り上げて、もう人でなくなってしまったよう…。 「お父さん、生きている方がかわいそうだな」 厳しい現実を覚悟しました。...


22年前のあの日(1)
今から22年前の1994年3月12日、私は両親と森山良子さんのコンサートに行く予定でした。 仕事から急ぎ帰ると、父がその日、何か調子が悪く、病院に行ったと言うのです。父は二人で行って来いと言うけれど、母も心配だから行かないと言うし、結局、チケット3枚無駄にしたのです。...


はじめに
もうすぐ一年になります。2016年1月、あと10日で立春という日、 父は笑顔の余韻を残して旅立ちました。82歳でした。 父は1994年、脳血管障害により右半身の自由と言葉を失いました。 そして、結局22年間 「はいよ!」 このひと言しか話すことができませんでした。...